大空のサムライ

たしかそれは休みの日でした。

ぼんやりしながら僕がテレビをつけた時、すでにその人は映っていました。

なにやら風呂桶のようなものの中に乗り込んで報道陣の人達に

説明しています。



そのおじさんは「海に落ちても浮く」という理由から

ヒノキで作った風呂桶に巨大なビニール製の風船を

2、30個取り付けたものを作っていました。

なんでも琵琶湖畔からその日に飛び立つつもりでいたのです。

安全性を理由に運輸省から出発の許可などもちろん下りていませんでした。



天気の良い琵琶湖畔で、駆けつけた報道陣やテレビマンにおじさんは

上機嫌で説明していました。

手作りの気球は焼酎のビンを重しにしたというメチャクチャなもので、

内部にはたくさんのビンが並んでいました。

『これだったら飲めるしね』

なんてことも言ってました。

なんでも旧日本軍の風船爆弾を参考にしたとかで・・・・・・・

(大丈夫かいな)



結局、出発するのは駄目という事で、関係者やら家族やら

いろんな人達と押し問答の末に、とうとうおじさんは出発を

あきらめたかに見えました。




が突然、不意打ちで駆け出して行ったかと思うと風呂桶に乗り込み

発進させたのです。


バーナーに点火したんだったか、どうやったのかもう記憶にもないのですが

とにかく、とつぜん気球は発進しました。

現場は大混乱で

『待ちなさい!!待ってください!』

『降ろしなさぁい。降りてきなさーい!!』
  



おじさんのファンタジー号はどんどん上昇していきました。

ぼくがおじさんを見たのはそれが最初で最後でした。

確か翌日に海上保安庁の捜索機が宮城県沖で、

飛行中のファンタジー号を見つけたそうです。

おじさんは元気に手を振っていたとのこと・・・・・



       それから14年・・・・・



おじさんは帰ってきません。

風呂桶も風船もなんの残骸も見つからないので

いまだに法的にはおじさんは 『行方不明』 扱いだそうです。

交信を絶った位置や気流からして某国に不時着した可能性もあると

何かのテレビで見ました。

家族に謎の電話があるなどと言ってる番組もありましたが・・・

いろんな冒険家がいるけれども、ぼくの中で最もインパクトのある冒険家は

この 『風船おじさん』 です。

今ではアームストロング船長よりスゴイかも・・・と思っています。

今もどこかを飛んでいるのでしょうか? 嬉しい

                    おしまい。
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